外見の美醜にとらわれ、日常生活に支障をきたすほどの状態になってしまうのが醜形恐怖症。
人と会うとき等、自分の外見を意識するタイミングがあればおかしくないかどうかを確認せずにいられなくなる。
見た目への執着が非常に強く簡単ではありませんが、醜形恐怖症はカウンセリングによって克服していくことができます。
醜形恐怖症とは?
醜形恐怖症は「自分の身体が醜いのではないか」ということにこだわり、人と関わる場面で異常なほど不安や恐怖を感じてしまう恐怖症です。身体醜形障害(BDD)と言われることもあります。
醜形恐怖症とは,客観的にはそれほど,あるいはまったく醜くないと思われる容姿について,”異様に醜い”と悩む病態である。醜形恐怖症はDSM-Ⅳ-TRにおいては身体表現性障害の1つである身体醜形障害に位置づけられており,一般人口での発生頻度は0.7~2.3%であるとされている。
何度も鏡で自分の顔が醜くないかどうかを確認するなど強迫観念が非常に強く、うつ病、摂食障害、統合失調症等を併発する割合が高い傾向が見られます。
DSM-5では強迫性障害と同じ『強迫症および関連症群』に分類されていますが、以前は確信型対人恐怖症(思春期妄想症)の一種とされていました。
醜形恐怖症は外出が困難になってひきこもりやすいだけでなく、精神的に追い込まれての自殺企画が少なくないので注意が必要です。
醜形恐怖症の実態
鼻や目、口元、頭髪などのパーツにこだわる場合もあれば、顔全体や身体全体にこだわる場合もあります。
自分の見た目はおかしい、変に違いないと思うため、何とかしなければと整形を考える人が非常に多いです。
醜形恐怖症が題材となった「イグアナの娘(1996年テレビドラマ化、菅野美穂主演)」では、自分の姿がイグアナに見えるという極端な設定でしたが、自分の容姿が醜くて仕方がないと思う感覚には近いものがあると思っています。
実は私自身も高校時代から容姿にコンプレックスを持つようになり、自分のクセ毛が気持ち悪いと思い始めてから、毎日お風呂上りにドライヤーでクセ毛をまっすぐにしようと1時間くらい鏡に向かっていた時期がありました。
夏場に汗をかいたり、雨が降ったりするとまっすぐにならなかったため、翌日登校してみんなから「キモイ」と言われるんじゃないかと不安で仕方なかったのを覚えています。
他人から見て些細なことであったとしても、自分がおかしいとしか思えない以上気になってしまうのです。
醜形恐怖症になる原因
繊細で傷つきやすい、こだわりが強いといった生まれつきの性質があり、以下のようなキッカケで見た目に意識が向くようになって醜形恐怖症を発症するケースが多いです。
- 見た目のことを言われる機会が多かった(褒めるけなすどちらでも)
- 兄弟姉妹間で容姿を比較していた(されていた)
- 学校で見た目を馬鹿にされたりからかわれたりした
「ありのままの自分でいい」と思える自己肯定感が低いことから、親子関係で無条件に愛された感覚が薄い可能性も考えられます。
第一度近親者である親、兄弟姉妹、子に強迫性障害の人がいると醜形恐怖症の有病率が高くなるという情報もありました。
背景にはマスコミの「美」に対する価値観の植え付け(とくに女性の顔や体型)、インターネット上に蔓延るルッキズム(外見至上主義)も大きく影響している部分があると思っています。
醜形恐怖症と不安の心理
不安の置き換えという役割
醜形恐怖症は強迫性障害と似通っているところがあるため、不安の置き換えがおこなわれている可能性が考えられます。
根底に強い不安を感じていることがあり、ただその不安に向き合うことができないから別の不安に意識を向けざるをえない。
自分の見た目がおかしいのではないかと不安で何度も確認を繰り返すのは、本当の不安から目を背ける役割を果たしているわけです。
現時点で「不安なことは何か?」と聞かれたら見た目のことしか思い浮かばないと思いますが、カウンセリングで自分と向き合う機会を持つことで少しずつ気付けるようになっていきます。
回避による不安の強化
見た目を基準に物事を考えることが増え、上手くいかないことがあれば見た目がおかしいからだと紐づける。
すべての問題が見た目のせいで起こっているとしか思えなくなっています。
結果として自分の見た目が人目に触れる場面を避けるようになり、実際は自分の見た目に問題がないと気付く機会を失っているのです。
回避の繰り返しによって見た目が大丈夫と思える経験が得られず、不安が強化されて症状が悪化していく原理があります。
醜形恐怖症は美容整形で治せるのか?
自分の見た目が醜いと思っているため、整形手術を受ける人は多いのですが、見た目に致命的な欠陥があるわけではないので効果がないこともしばしば。
整形した部位が思い通りにならず気になりだしたり、整形したことがばれないかどうか気になりだしたりして、醜形恐怖症が悪化してしまうケースもあります。
美容整形で治せるとは言えませんが、納得できる整形を受けて改善に向かった事例はゼロではないため、どうしても美容整形を受けたいなら醜形恐怖症に詳しいクリニックをお選びください。
事前のカウンセリングでしっかり時間を取って納得いくところまで話をしてくださるはずです。
ただ、整形手術を受けるとすぐ元に戻せないだけでなく、失敗するリスクもありますので、慎重に判断していただければと思います。
美容整形を受けないほうがいい場合
「見た目の問題さえ解決すればすべて上手くいく」という考えで美容整形を受けようと思っているならやめてください。
以下のような流れで醜形恐怖症を悪化させることにしかならないからです。
例えば、奥二重のまぶたを気にしていて整形手術で平行二重になったとします。
問題が解決したので見た目を過剰に気にすることがなくなって普通に生活できるようになります。
しかし、何か上手くいかないことが出てくるとまた見た目が気になってきて「整形したところ以外の見た目に問題があるのではないか」という発想に至る。
鼻なのか頬骨なのか歯並びなのか、上手くいかない原因は見た目にあると思うため、また他の部位を整形しないといけなくなります。
そして、整形を繰り返しながら見た目への意識が強化、醜形恐怖症は悪化の一途を辿ることになるのです。
醜形恐怖症はどうすれば克服できるのか?
上手くいかないことをすべて自分の見た目に結び付けてしまう醜形恐怖症は、克服できるまで時間がかかりやすい傾向が見られます。
誰かから「別に変じゃないよ」「かわいいよ」「かっこいいよ」と言われても信用できないどころか、逆に自分が醜いから気を遣って言っていると確信するほどの状態なので、医者やカウンセラーから見た目について客観的な意見をもらったところで何の効果もありません。
醜形恐怖症を克服していくためには、見た目以外のことに焦点が当たるような働きかけをしてもらうこと、不安との一体化から抜け出すために醜形恐怖症の原理を教わること、イメージや行動の変化で段階的に安心感を積み上げること等が必要です。
カウンセリングを受けながら、見た目の問題を隠れ蓑にして目を背けてきた本質的な原因と少しずつ向き合い、自分自身と距離をおいて客観視できる状態にしていくことで克服することができます。
醜形恐怖症は繊細な感性を持っているがゆえ心に負っている傷が深く、カウンセリングで自分自身と向き合うことに抵抗を感じやすいので、カウンセラーのブログ等を読んでから相談するかどうか慎重にご検討ください。