親御さんから「息子が暴れて収拾がつかず困っている」という内容でご相談いただくケースはよくあります。
どちらかというと直接の暴力ではなく、暴言や物を破壊する行為などが多いですね。
息子さんがカウンセリングに前向きであれば一緒に来られたり、否定的であれば親御さんから対応の仕方についてご相談いただく形になっていますが、対応している中で自分の娘に対する間違った接し方に気付かされた経験がありました。
当時娘は小学生で暴力と言ってもかわいいものでしたが、もし私が親として間違った接し方を続けていたならいずれ大変な問題になったのは明らかです。
実際、私と同じような間違いをしてしまっているなと感じるケースも多々ありますので、今回の内容で何かしら気付いていただければと思っております。
なぜ子供は親に暴力を振るうのか?
夫婦間でのDVや子育てにも共通することですが、人は口で言っても伝わらないときに暴力を振るいやすくなります。
何を言っても相手が理解しようとしてくれない。
相手に理解してもらえるように上手く自分が話せない。
言葉ではどうしようもなくなってしまうため、暴力で訴えるしかない状態になるのです。
とくに親子間では子供が親に逆らえない関係になりやすく、逆らえないからこそ言えなくなってしまい、暴力という手段に走りやすいところがあります。
まだ身体が小さく親に勝ち目がないときは暴力という選択肢は出てこないのですが、親と対等以上の体格になってきたときに暴力が始まりやすい。
父親ではなく母親に対して暴力を振るう子供が多い傾向にも表れています。
暴力を振るってでもわかって欲しい気持ちがあるというのは、それほどまで相手に求める気持ちがある証拠。
どうでもいい相手に対してわかって欲しいとは思わないですからね。
親に対して強い愛情を抱いている人に暴力を振るいやすい傾向が見られます。
家庭内暴力の背景にある被害者意識
家族に暴力を振るう子供は強い被害者意識を持っています。
被害者意識とは、「自分は被害にあった人間だ」という認識のことを指し、償いを受けること等を当然とする感覚です。
親のせいで自分はこうなった。親が自分を不快にさせるから暴力を振るう。
「暴力を振るわされている」という表現が近いかもしれません。
被害者意識は誰しも多少なり抱くものではありますが、強すぎると問題が起こります。
自分のせいだと思えば収まることも相手のせいだと思うから収まらない。許せない。
被害者意識が強い子供ほど物事に対して不寛容で些細なことにイライラしやすくなってしまうのです。
被害者意識の原点は甘やかし
例えば、学校に遅刻しないよう親に毎朝起こしてもらうのが当たり前になっている子供がいたとします。
決められた時間までに登校するのは自分の責任ですよね。親が学校に行くわけじゃありませんから。
なのに、親が起こしてくれない日があると子供は「なんで起こしてくれなかったの!」と親を責めるようになります。
決められた時間までに登校するのが親の責任にすり替わっているわけです。
たとえ親に起こしてほしいと頼んでいたとしても、起きれなかったのは自分のせいなのに。
本来、子供が自分の責任でやることを親が代わりにやればやるほど、親の責任になることが増えて子供は被害者意識を強めていく。
被害者意識の原点は親が責任を本人から取り上げすぎたことにあると言えます。
過干渉とは何なのか?原因から子供に生じる問題、改善方法までお伝えしています。
受容で子供の被害者意識を強めてしまう
子供が親を責めたときに「起きれなかったあんたが悪い」と突き返せばまだマシです。
しかし、「ごめんね」と受け止めてしまうと「自分は悪くない、親が悪いんだ」という認識をさらに強めます。
学校であったことを話すときも「○○君が一緒に遊んでくれなかった」とか「自分だけ誘ってもらえなかった」とか、被害者の内容が増えていく。
「他人のせいで自分はこうなった」という被害者の思考を受け入れ続けるとさらに悪化します。
そして、被害者意識を持った子供は細かいことでも確認したり判断を親に委ねる、他人に委ねることによって責任回避する習慣を形成。
子供は責任を負わないから成長できず、親は自分のせいではないのに責められる。
結果として子供が不登校になったり親に暴言や暴力を振るうようになったり、責め続けられた親が疲弊して精神を病んでしまうケースも少なくありません。
被害者意識で成長しないから暴力が止まらない
子供が被害者意識を強く持つのは以下のようなメリットがあるからです。
- 被害者であれば周りから同情してもらえる
- 被害者という立場で相手より優位に立てる
- 被害者だから自分は悪くないと正当化できる
- 被害者であれば自分の問題を責められずに済む
被害者であり続ければ自分が責任を負わずに済むから楽ではあります。
しかし、人は自分が責任を負い対応する中で精神的に成長していくので、他人に責任転嫁し続けてきた被害者は大きな問題を抱えるのです。
精神的に成長できていないと感情を受け止める「心の受け皿」が小さいまま。
自分で自分の感情を受け止めることができないから暴走してしまう。
だれかに止めてもらおうと被害者になって感情をぶつける。
ぶつけて一旦治まっても心の受け皿は小さいままだから、感情が暴走してぶつけるを繰り返すことになります。
家族は疲弊して向き合えなくなり、周りにいたはずの友達も離れていく。
それでも、自分に問題があると思えないから他人を責めて被害者であり続けるのです。
家族に暴力を振るう子供の本音
親に受け止めて欲しいのではない
暴力を振るって怒りをぶつける。ぶつけてもまだイライラしてる様子でまた暴力を振るってくる。暴力を振るえば振るうほどにイライラして「イーッ」となってくる。そして、過剰に暴力を振るうけどおさまらず、最終的には泣いて終わる。
これが私に怒りをぶつけてくる娘のパターンでした。
私はどんな怒りでも受け止めて発散させた方がいいと考えていましたので、どれだけエスカレートしても嫌だと言わず自由にさせていたのです。
娘が私に「嫌やって言わへんからやるんやん。嫌やったら嫌って言ってよ」と言ってくれたことがあったのですが、嫌だといえば娘は怒りが発散できなくなるだろうと思って嫌だと言うことはありませんでした。
しかし、どれだけ受け止めて発散させても娘の苛立ちは消えず、暴力を繰り返したのです。
暴力による罪悪感で苦しんでいる
娘が言ってくれた言葉の通り、娘は怒りを暴力で発散したかったのではなく、コントロールできなくなった怒りを止めて欲しかったのです。
外でおとなしくて家族にだけ暴力を振るう子供は暴力が悪いことだとわかっています。
だから本当は暴力を振るいたくない。
「それでもやってしまうことによる罪悪感」に苦しんでいます。
暴力や破壊をいくら繰り返しても何かモヤモヤした感じが残ってスッキリしないのは、罪悪感で自己嫌悪に陥ってしまうからです。
子供の暴力をやめさせるために親がすべきことは、何をされても我慢して受け止めることではありません。
暴力を振るう子供が自分の感情をコントロールできずに苦しんでいることを理解しながら、コントロールできるようにサポートしていくことなのです。
子供が暴力を振るってきたときの対応
なぜ子供が暴力を振るわざるをえない状態になっているのか、背景を考えながら対応することが必要です。
暴力や暴言で自分が責められているという感覚では腰が引けてしまい、余計に子供の暴力はエスカレートしていきます。
暴力の裏側にある子供の気持ちを受け止めるイメージで接するよう心がけてください。
「暴力を振るう人間は最低だからやめなさい」「そんなことしてるとろくな人間になれないよ」といった正論はやめましょう。
子供の逃げ場をなくし追い込むことにしかならないからです。
親が殴られて痛い、上手く対応できない自分に耐え切れないといった理由で泣いてしまうと、子供は余計に罪悪感を増してしまいます。
泣けば一旦収まるかもしれませんが、受け止めてもらえないまま感情を押し殺しただけで何の解決にもならないどころか逆効果になりかねません。
その他、大声を出したときに「黙れ!」、大音量で音楽を聴きだしたときに「うるさい!近所迷惑になるからやめなさい!」、物を壊したときに「もったいないからやめろ!」といった感情的な対応も効果がないだけでなく、子供の感情を逆撫でして余計に怒りを助長しますので気をつけてください。
子供の暴力をやめさせるために親が果たす役割とは?
親子の責任をちゃんと分離させる
被害者意識を一切持たせてはいけないとか、「全部子供に任せなさい」という話ではありません。
何でもかんでも子供に責任を持たせるのはおかしいですし、それはそれで無責任な親になってしまいます。
親にも責任があるし子供にも責任がある。
責任の重さに違いはあったとしても親だけに責任があると考えるのは違うということです。
どこまでが親の責任でどこまでが子供の責任なのか。
しっかり線引きをしたうえで本人に責任を持たせていく。
子供が責任転嫁してくる状態になっているのであれば、衝突してでも突き返すことが必要です。
自分の責任として受け止めれば相手次第ではなくなるので自発的に考えて動けるようになります。
自分で自分をコントロールできる感覚が養われていくわけです。
自分で自分の人生を切り開けるように子供を導く
被害者は加害者に支配され続けます。
相手のせいにできるというメリットはあっても、自分が自分の力で状況を変えられない感覚になってしまうのは大きなデメリットです。
人生は自分で切り開くものであり、本来自分がコントロールできるもの。
親子のかかわりを通じて自分で人生を変えていけることを伝えていきましょう。
- 親が行動で示す
- 相手がどうであっても自分次第で変えられたエピソードを話す
- 子供の話から本人にできることを一緒に探す
習い事でも何か一つを継続して自分で成し遂げる力を養ってあげることも大切です。
目の前に障害となる問題が現れたとしても、相手が人生をコントロールするわけじゃありません。
神様のような人が現れて助けてくれるわけでもありません。
子供が自分の責任を負い、成長していくことで被害者意識は薄れていくのです。
子供の家庭内暴力をやめさせるために
家族が気付いていない問題に気付き解決する
子供が家で暴れることにはそもそもの原因があります。
しかし、親も子供もその原因から目を逸らしている状態であるため、親からして子供がなぜこんなに暴れるのかわからないし、子供からしても自分がなぜ暴れてしまうほどイライラするのかわからない状態になっています。
そして、お互いがよくわからないまま表面化している暴力だけに焦点をあてるから解決できないのです。
親には無意識でおこなっている子供への間違った接し方があり、子供には無意識にしている感情の抑圧、我慢があります。
気付けないままの状態では解決しようとしてもどうしようもできませんが、カウンセリングを受けながら少しずつ目を逸らしている本当の問題に気付き、働きかけをしていくことによって解決することができます。
子供と向き合うことを諦めない
暴力を受容されて育った子供は自分の感情をうまくコントロールできず、人に表現することが難しい状態になります。
結果、自己中心的な考えに支配されることでストレスを抱えやすくなるため、依存症や対人恐怖症といった心の悩みを抱えて苦しむ確率が高くなるのです。
子供の暴力がエスカレートしてきたり、怒っても聞かない、逆により暴力が過剰になるかもしれないと思うと恐くて何もいえなくなる気持ちはわかります。
「もう無理だ」と投げ出したくなるときもあると思います。
しかし、親として本当に子供のことを思うのなら、感情をコントロールできず苦しむ子供としっかり向き合うことが必要です。
暴力への恐怖心と闘いながら子供と向き合うサポートをカウンセリングでおこなっております。