「におい」というのは人間にとって切っても切れないものです。
生まれてすぐの赤ちゃんはほとんど目が見えない状態なのに、嗅覚のおかげで母親のおっぱいを探し当てることができる。
私たちが生きるために重要な役割を果たしてくれていました。
そして、今も嗅覚のおかげで香りや食事を楽しむことができています。
においを失うと生活が味気ないものになってしまうんですよね。
誰にとってもにおいは大切ではあるものの、自分のにおいに執着する自己臭恐怖症になるかどうかは別。
なぜ自分のにおいが気になって仕方ない状態になるのでしょうか?
自分のにおいが気になる原因
嗅覚を過敏にする「不安」
食事と生殖との関連が深い嗅覚は五感の中で原始的な感覚です。
嗅覚だけが情動を司る扁桃体にダイレクトに作用すると言われています。
嗅覚の情報を脳に伝える神経経路は、脳内で「情動」の中枢(扁桃体)に短距離でつながっている。そのためにおいの刺激は、感情や直感、生理的な反応などに結びつきやすい。
においで敵か味方かを判別して自分を守っているところもあります。
つまり、不安や恐怖を感じやすい人ほど嗅覚が敏感になるのです。
においを気にする人が増えた背景として、メディアだけでなく不安を抱えやすい社会になったことは影響していると思います。
不安の原点は親子関係
生まれつき不安を感じやすい人もいますが、親子関係で大きく変わります。
ありのままの自分を愛してもらえなかった。
だから、親にとって都合のいい子供、親が求める子供を必死に演じる「いい子」になる。
いい子の自分は愛されるけど、いい子じゃない自分はどうなのか。
常に不安がつきまとい安心できない状態になってしまうのです。
規範意識が強い親に育てられると、正しいことをする自分は愛され、間違ったことをする自分は愛されない。
何が正しいのかにとらわれ安心感が得られないところもあります。
0~1歳くらいの体験が影響することも
記憶にはないところですが、赤ちゃんの頃に親がどう接してくれたかも影響します。
- 母親に抱きしめてもらってにおいを嗅ぐ時間が少なかった
- 乳離れを急かされ安心しておっぱいを飲めなかった
- キッチリ時間で区切られて心ゆくまで遊ぶことがほとんどなかった
安心感はとくに母親との関係が影響します。
子供の気持ちより正しい子育てを優先する親であればあるほど子供は安心できない。
「いつ正論で気持ちを殺されるか」という不安を抱えながら過ごす日々。
チック、吃音、癇癪など、子供に明らかなストレス反応が出てくることも多いです。
自分のにおいを過剰に気にしだすキッカケ
幼少期から莫大な不安を抱えながら人とかかわっていく。
友達ができて表面上は上手くいっていてもどこか安心できない。
「大丈夫かな、大丈夫かな」と思いながら、でも相手に合わせていたら何とかなってきた。
でも、あるとき自分が拒絶されたように感じる。
直接「臭い」と言われることもあれば、クラスの誰かが「臭い」と言っているように感じることもあります。
咳や鼻すすり、何か自分を拒絶する態度を取られたように感じた。
「ああ、自分は臭いから拒絶されるんだ」と紐づけてしまう。
些細なキッカケが幼少期から抱えていた莫大な不安と結びつくわけです。
だから、いくらにおいのケアをしても効果がない。
親子関係で抱えた自分が生きるか死ぬかの不安が、においに置き換えられているのですからね。
たしかに面と向かって「臭い」と言われれば誰でもショックを受けるでしょう。
かといって、言われた全員が必ず自己臭恐怖症になるわけではありません。
本当に体臭だけの問題ならここまで深刻化することはないのです。
においを完璧になくそうとする心理
臭い自分は受け入れてもらえない。
だから、臭い状態でなくなれば受け入れてもらえると思う。
でも、どれだけにおいをなくせたとしても安心できません。
そもそもにおいがあるかないかは確認しきれないし、相手の反応も変わらないから。
どれだけ頑張っても周りは臭いと思っているとしか考えられない。
莫大な不安がある限り大丈夫だと思うことはできないのです。
背景にある不安を解消しない限り、いつまでもにおいに執着してなくそうとすることはやめられません。
においをなくす=人間らしさをなくす
「人間臭い」という言葉があります。
人間が持つ感情や欲求が感じ取れる状態を意味する言葉です。
楽しいときには笑い、悲しいときには泣き、スイーツを食べすぎてしまうこともある。
自分のにおいをなくそうとするのは、人間臭さをなくそうとすること。
つまり、感情や欲求をなくすことになります。
感情や欲求があるままで我慢するのはつらいけど、なくしてしまえばつらくない。
自分を守るために人間臭さをなくさざるを得なかったと言えるでしょう。
自己臭恐怖症で悩んでいる期間が長い人ほど生気がないのは、人間臭さを失っているからです。
自分のにおいへの過剰な執着をなくすために
においに置き換えられた本当の不安と向き合っていくことが必要です。
ただ、親に対する感情は複雑であるがゆえ無意識に目を背けます。
カウンセリングで表面的なにおいの話から段階的に本質へと進んでいく。
しんどいから一気に治したい気持ちはあるのですが、無意識のブレーキに阻まれないために少しずつ話していただきます。
抑圧し続けて麻痺していた感情が動き出すと、最初はネガティブな感情があふれ出して不安定になる。
今までより不安や怒りが強くなったりもするのですが、感情を感じられるようになったのは克服に向かっている証拠です。
無意識に目を背けてきた親への感情が自覚できるようになり、本当の自分を取り戻ことができていく。
自分自身に対して安心感を持つことができ、不安に駆られてにおいに執着することはなくなるのです。