「対人恐怖症」というと誰に対しても怖がるイメージかもしれませんが、実は特定の人だけを怖いと思う症状もあります。
最初から怖いと思いながらかかわってどんどん怖くなるケースもあれば、かかわっていく中で怖いと思うようになるケースもある。
どちらにしても毎日かかわらざるをえない人が怖い場合、どうしようもなく辛い日々が続くことになってしまうのです。
特定の人が怖いと困るのは職場
特定の人が怖いというご相談は、職場の先輩や上司に対するものばかりです。
挨拶するだけでも怖いのにどうしても仕事上かかわらざるをえない。
不自然にならないようにと思っても、目を合わせられないし、普通に話すことができません。
意識しすぎて動悸までしてくるほど緊張、同じ場所にいるだけで落ち着かず仕事が手につかない状態になる人もいました。
相手との関係はどんどん悪化して仕事にも支障をきたすので、職場にいるのがものすごくつらい状態になってしまいます。
自分で何とかしようとすればするほど悪循環に陥り、かなり関係をこじらせてからご相談いただくケースが多いです。
なぜ、特定の人だけ怖いと思ってしまうのか?
特定の人との関係で形成されたトラウマ
トラウマはもともと戦争や自然災害、虐待等、直接死につながる経験をした人が負う心の傷を表す言葉でしたが、以下の3要素を満たすものも含まれるようになっています。
- 長期反復性
- 対処困難性
- 自己コントロール感の剥奪
本稿では,致死性の高さのほかに,3つの属性が個人に深刻な影響を与える出来事の属性である可能性を示唆した。出来事が単回性ではなく長期間継続する,複数回同じようなことが起きるという長期反復性,これまでの対処法略では状況を改善できず,回避もできないという対処困難性,自己の行動や対処の自律性を剥奪される自己コントロール感の剥奪がこれにあたる。
つまり、特定の人と長期にわたって接しながらも上手く対処できず、自分ではどうしようもないと思った経験はトラウマに該当するわけです。
たいていは親子関係が当てはまると思いますが、兄弟姉妹、友達、部活の先輩、職場の上司などでも起こりえます。
トラウマが特定の人への怖さを強化していく
過去のトラウマは脳内の長期記憶を保管する『側頭葉』にあり、当時不安や恐怖を抱いた度合いが強ければ強いほどしっかり記憶されています。
「また怒られたらどうしよう…」
「また失敗したらどうしよう…」
「また見捨てられてしまうかも…」
トラウマが脳内の不安や恐怖を司る『扁桃体』を刺激してしまうがために、不安や恐怖が高まって一時的に対人恐怖の症状が出るのです。
特定の人の前では緊張して顔がこわばったり、普通に話せなくなったり、頭が真っ白になったり、大量の汗をかいたり…
何とかしようにも不安や恐怖に飲まれると頭が働かなくなるので、余計にぎこちなくなっていく。
結果として苦手な人との関係は上手くいかなくなり、またトラウマを記憶することを繰り返してどんどん悪化していきます。
特定の人が怖い感覚は広がる
最初はある特定の一人だけに恐怖を感じていたのが、同じようなタイプの人に広がっていくことはよくあります。
例えば以下のようなケース。
ヒステリックな母親との関係でトラウマが形成された人が、社会に出てヒステリックな上司のもとで働くことになった。
上司とかかわるときに恐怖を感じてしまって上手くいかない。
ミスをしたり発言できなかったりで上司を怒らせてより恐怖を感じるようになっていく。
出社することができなくなって適応できないまま辞めることに。
こんな感じで同じようなタイプの人に適応できなかった経験を繰り返すと、ヒステリックな人、感情的になりやすい人は危険だと脳が学習します。
母親だけ、上司だけが怖かったはずなのに、感情的になりやすい人全員に出るようになってしまうわけです。
人が怖い、人と話すのが怖い。対人恐怖症の実態と克服方法をまとめました。
特定の人が怖い状態を克服するために
特定の人との関係で見失った自分を取り戻す
怖い相手の前では本当の自分が抑え込まれてしまいます。
まるで別人のようになって頭が働かず、普通に話すことすらできない。
自分を見失うことで抵抗する気力を失い、さらに相手が怖いと感じる状態になっています。
この状態を改善するためには見失った自分を取り戻すことが必要です。
特定の人との関係で感じている怖さ、しんどさ、つらさ、嫌悪感、怒り等を思うがまま書き出してみてください。
公共の場では口にできないような言葉を使っても構いません。正直な気持ちを書きましょう。
自分の気持ちがよくわからない、書いても実感が湧かないという状態であっても、カウンセリングでお話しいただくことで少しずつ自分を取り戻していくことができます。
特定の人に対する怖さの原因を明らかにする
- 親子関係でトラウマが形成されたのか
- 学生時代にいじめられた経験が影響しているのか
- 相手に嫌われることを恐れているのか
- 相手に対して許せない気持ちがあるのか
- 敏感な性質が相手の特徴に反応してしまっているのか
特定の人の特徴や怖いと思うようになった経緯、自分との関係性、自分の性質等を振り返りながら、「なぜ怖さを感じるのか」について掘り下げていきます。
いくつかの原因が重なっているため、一つに絞らず複数の可能性を考えてみてください。
カウンセリングでは現在の状態や経緯をお聴きしていく中で、原因と思われることをお伝えしていきます。
恐怖心に立ち向かえる攻めの気持ちを持つ
人は怖さを感じているとき、腰が引けた状態になっています。
怖いから逃げたくて仕方ないわけですが、逃げようとすればするほど恐怖心は強まり、相手との関係も悪化してしまう。
逆に、向かっていく気持ちを持つことができれば恐怖心はなくなっていきます。
自分は相手との関係をどうしたいのか、仕事ではどうしていきたいのか、どういう人でありたいのか等。
カウンセリングでは恐怖心に立ち向かう攻めの気持ちを養い、特定の人が怖い状態を改善していきます。
特定の人だけが怖い対人恐怖症の場合、克服にかかる期間も短く済むケースが多いです。
なるべく恐怖を感じる対象が広がってしまう前にカウンセリングを受けていただければと思っております。